moratorium ラテン語の動詞 morari「遅らせる」に由来。本来は経済用語として、災害や戦争など非常事態に際して、責務支払いその他の法的義務の履行が猶予されること、またその猶予期間を指す。
また、核実験や原子力発電所設置など、危険なプロジェクトや危険物の製造・使用の一時的停止をいう。
[社会心理]
社会心理学において、社会心理的猶予期間を表す用語(一般に話題にのぼる場合は、ほぼこの意味)。子どもから大人へ移行するためにアイデンティティを形成してゆく期間である青年期の特徴をとらえることばとして、E.H.エリクソンが採用した。
身体や知性は成熟しているのに、大人としての義務や責任(社会に出て働くことや、家庭を持ち親になることなど)を免除されている期間をいう。
具体的には、高校・大学時代にあたる。
制度的に自由な時間が保証されているこの期間(これは近代社会特有の現象で、日本における「元服」のように、強制的にこどもから大人へと移行させる通過儀礼をもつ社会には認められない)に、青年は遊びやいろいろな体験をくりかえし、自分の社会的な役割を模索する。
こうしてアイデンティティが確立され、猶予期間は終わることになっていたのだが、最近はこれが引き延ばされ場合によっては内面化されてここから抜け出せなくなるケース(「モラトリアム人間」)も増えてきた。
近年では、青年期の終わりは三十歳頃、あるいはそれ以降ともいわれる。その社会的背景として、
1)学校に通う年数が増えたこと
2)高齢化にともない、青年期も相対的に引き延ばされること
3)父親の在職期間すなわち経済的に依存できる期間が延びたこと、などが挙げられる。
また青年自身の心にも、
1)幼い頃から絶対安全な道を選ぶように育てられ、わずかな危険にも過敏になり、これを極力回避するようになる
2)父親と接する時間が減ったことにより母子関係の絆が過剰に深まり、「子ども」としての役割から逃れられない、
3)社会の価値観や権威がたえず変化するので、模範とすべき大人のイメージを求めて右往左往してしまう、といった特徴がみられる。
だがモラトリアムとして認められているはずの期間が、受験勉強や諸々の抑圧に侵され実際にはゆっくりものを考える余裕さえないという状況もあり、モラトリアムは延長されているのではなく阻害されているともいえる。
出典:「MD(MiniDictionary) 現代文小論文」(1998.9 朝日出版社)p620いつまでも社会的な自己(アイデンティティ idebtity)を確立するためのモラトリアム(moratorium 猶予期間)にとどまり、既成の大人社会に同一化しないままの状態でいる人間のこと。
モラトリアムはそもそも支払猶予期間の意味であるが、社会心理学的用語としてエリクソン(Erikson, E.H.)は、青年期は、知識、技術の研修のために、知的、肉体的、性的な能力の面では一人前になっているにもかかわらず、なお社会人としての義務と責任の支払いを猶予されている状態と定義した。
ところが一九六〇年代から七〇年代にかけて、次第にこの意味での青年期が延長し、いつまでもモラトリアム状態にとどまる青年層が増えた。
そこで、小此木は、青年のみならず各年代、階層の現代人の心に、いつまでもモラトリアム状態にいて、社会的な自己(アイデンティティ)を確立しない心理構造が一般化している事実を指摘し、こうした心理構造の持ち主をモラトリアム人間と名付けた。
モラトリアム人間は、
アイデンティティを全うするために、他の自分の可能性を切り捨てる「あれかこれか」型の生き方に比べて、「あれもこれも」型であり、自分の多様な可能性を常に自由に発揮できるような柔軟性を持っている。しかし、社会に対して当事者意識を欠き、お客様的であり、組織、集団、国家、社会に対して帰属意識が希薄で、何事にも一時的、暫定的にしか関わらず、自分のすべてをかけることを避けるなどの心理傾向を持っている。
出典:「現代用語の基礎知識1998」(1998.1 自由国民社)pp.1195-1196---モラトリアム人間になるなよ、というメッセージを感じたんで、ここに↓載せちゃいます。---
したいこと、しよう。
4月から、高校生にみなさん。
きっと、春からの高校生活に希望をふくらませていることと思います。
でも、どうか間違えないでください。
高校は、楽しい所ではありません。楽しくする所、なのです。
自分のしたいことを見つけて自分から楽しまないと、
いま描いているような高校生活は決して手にできないのです。
面白いこと、笑えること、夢中になれることは、もう誰も用意してくれないのですから。
自分で見つけなければ、何も始まらない。
それが高校の厳しさ、それが高校の魅力なのです。
やるべきことを与えられる時代を卒業してしまった、君たちへ。
勉強のこと、毎日のこと、進路のこと、
一人ひとりが自分だけの「したいこと」を見つけられるように。
私たちはたくさんのきっかけと材料を用意して、君たちの前向きな気持ちを待っています。
「したいこと、しよう。」 それは、私たちから全ての高校生へ送るエール。
君たちと一緒にしたいことを探し、それを実現するための力になる。
私たちは、進研ゼミです。
●「モラトリアム人間」 社会的な責任や義務を一時的に猶予された状態にある人々。もともとはいつまでも大人になろうとしない学生や青年を指したが、今日では、むしろ、この心理はだれもが共有する社会的性格となった。
●「モラトリアム国家」 国としてのアイデンティティをはっきりさせないで、国際社会の中でのモラトリアム状態にある国家のこと。平和中立を謳ウタうが、同時に国際的な責任や義務を果たそうとしないという批判を受ける。
●「モラトリアム・エリート」 青年期のモラトリアム心理を持ったまま長じて、組織の中枢に達した人々。一般に自己中心的な権力志向が強く、それでいて自らの責任をとらないという性格を持つ。
●「モラトリアム二世」 モラトリアム人間の両親から生まれてきた世代。ポスト団塊の世代に相当する。自らを律するモラルをまったく持たず、むき出しの自己中心的な欲望だけで生きる。現代のモラルなき世相の新しい主役。
出典:小此木啓吾「モラトリアム国家 日本の危機」(H10.7 祥伝社)p裏表紙